許してくれ<男女CP・一部性的表現有>

お題配布元:afaik

ゆ:揺れる瞳で見つめ、震える声で愛を誓う
る:ルージュの紅よりも、ただあのひとの、
し:しんとした一番奥で、真芯だけが燃えさかる
て:丁寧な指先が愛してくれたのは確かにこの
く:くっきりと、どこまでも鮮やかに残る
れ:煉獄の炎にあのひとの灼熱を想おう

全部で一つの話になるよう繋がってます。メリーバッドエンド注意。

:揺れる瞳で見つめ、震える声で愛を誓う

「私はここに誓います」

――ああ、神よ、お許し下さい。

「戴冠し、このユピテリアが第二十八代君主の座に就くと同時に」

――偽りの誓いを立てる愚かな娘を。

「この身を神に捧げ、生涯独身であることを」

――それでもこの心は唯一人のものなのです。

***

ああ、殿下……いや、陛下の御声が震えている。
ほんの僅か、数歩歩いて手を伸ばせば抱きしめることが出来る場所に在るのに。
私に出来るのは頭を垂れ、傅き、誓いの言葉が終るのを待つのみだ。
叶わぬ恋だと知っていた。下級貴族というのさえ憚られる我が出自。
王国の姫君、そしていまや女王となられた方と並べるわけなどない、と。
覚悟していたはずだったのに。

――連れて逃げてください。

そう請われたのは昨夜のこと。

――王位など継ぎたくはありません。

そう、あの方が王位を継ぐ予定などなかったのだ。戦が終り、国が平和になったのなら。
二人で国を出て、何処かでささやかに暮らそうと。出来るはずだったのだ。
前国王夫妻が暗殺さえされなければ。
……残された忘れ形見の王子はまだ幼く、執政できるはずもなかった。

――わかって……いらっしゃるはずです。

絶望に揺れる瞳から、目を逸らす以外に何が出来ただろうか。

――貴女しかいない。……エウリュディーチェ。

国を守る騎士としては模範的な回答で、恋人としては最悪の回答をした。

――心を籠めてお仕えいたします。……我が君。



:ルージュの紅よりも、ただあのひとの、

昂ぶって、ほんのりと紅に染まっていく白い肢体。
抱いた時のあの方はとても美しくて。幾度触れても飽きることなく、
限られた時間、何度も何度も狂ったように掻き抱いた。
私だけが知っていた。化粧を落としてもなお美しい白い肌、
柔らかい紅色の唇、触り心地の良い金糸の髪、炎の色をした瞳が切なく潤むその時を。

――…………っ! カーディ……ス……。

私を受け入れてくれる場所は熱を帯びてさらに紅く。
甘く名を呼ぶ声に意識が溶かされそうだった。
あのまま全て溶けてしまえたら、どんなに良かったか。

***

「今……何と……?」
「宮殿にアーベル軍が押し入った、と言ったのだ」
「……っ!」

思わず駆け出したところを同僚に腕を掴まれとめられる。

「離せ! 宮殿には陛下が……!」
「今からでは間に合わん! 殺されるぞ」
「構わん。私の居場所はあの方の元のみ」
「そんなに大事か、あの方が」
「ああ。…………他の全てがあの方の敵に回ろうとも、私だけはお傍にいるさ」

あの紅の瞳に誓ったのだ、あの日。

――心を籠めてお仕えいたします。……我が君。

――この命尽きるまで。もしくは貴女の命が尽きるまで。

――貴女のお傍におります。

そう、死が二人を分かつまで。病めるときも、健やかなるときも。
婚姻は出来ないながらの、精一杯の誓いだった。



:しんとした一番奥で、真芯だけが燃えさかる

神よ、私は君主として失格です。

「女王は何処だ! 探せ!」

耳に届く怒声に全て終わるのだとほっとしているのですから。
国よりも民よりもただ一人を想う。

「……いたぞ! ユピテリア女王、エウリュディーチェ陛下でいらっしゃいますな?」

ああ、これで私は一人の女に戻れる。

***

「もしも、私が市井の娘であったなら、堂々と貴方と会えたでしょうに」
「それは意味を為しませんよ、姫。……今、こうしてお会いできたのも、貴女がこの国の姫で、私が貴女に仕える身だからなのですから」
「ええ。それでも……思いますの」

――周囲の目を気にせずに、立場など気にせずに睦みあえたならどんなにか。

***

「ええ」
「……この城は既に落ちた。我々と共に来ていただけますかな?」
「私をどうしようというのです」
「君主の交代を明確に表すために貴女には公の場で処刑されていただく必要がある。まぁ、処刑されるだけ、というのもお気の毒ですからその前に少々お愉しみ頂きますが」

その言葉に、後ろの男たちが下卑た表情に変わる。
意図を悟り、ぞっとした。触れさせるものですか。

――エウリュディーチェ。

私を昂ぶらせるのはあの声だけ。

――貴女のお傍におります。

きっとカーディスはここに向かってくれているのでしょう。
……ごめんなさい。傍にいる、と言ってくれたのに。
私は貴方の到着を待てそうにはありません。
それでも私は、貴方以外には触れられたくはないのです。



:丁寧な指先が愛してくれたのは確かにこの

「うっ……何、を」
「それ以上私に近寄ることは許しません。無残に死にたくはないでしょう?」
「……自害ですか、ご立派なことで」

床の敷物に撒いた油と、私が手にしている火を灯したままの燭台を見比べて、無粋に入り込んできた男が皮肉な笑みを浮かべた。
私も負けず劣らずに顔に皮肉の表情を貼り付けていたのでしょう。

「……覚えておきなさい。侵略者。ユピテリア最後の女王の死に方を」

燭台を放り、部屋の入り口近くに火が上がる。
瞬時に後ずさった者達は滑稽に見えて、ごく自然に笑った。

「ごきげんよう」

懐に忍ばせていた短剣を掲げ……喉を突く。
広がる痛みの中で、いつかの言葉を思い出す。

***

「痛くはありませんか?」
「いいえ? ……どうして」

優しく触れてきた指。なのにそんなことを尋ねたカーディスがおかしくて、つい笑ってしまった覚えがあった。

「傷だらけでごつごつとしていますから。触れて貴女に痛い思いをさせていたら、と」
「まぁ。大丈夫ですわ」
「…………よかった」

私の言葉にほっとしたように表情を緩ませ、あの人は口付けを交わしてきた。

「貴女は綺麗だ。……誰にも傷一つつけさせません。この肌に」

***

そう言って、本当に慈しんで触れてくれたのだった。
……許してください、傷つけさせないと言ってくれたのに。
貴方がそうやって想ってくれたこの身を、私は今自らの手で。



:くっきりと、どこまでも鮮やかに残る

――姫。……エウリュディーチェ。

貴方の声が響く。私を呼ぶ優しい声が。

――我が君。愛しております。

…………こうなったのは罰かも知れませんね。国を預かる身でありながら、誰よりも貴方を想い、神に偽りの誓いを立てたことへの。ああ、けれど。
最期の瞬間まで、貴方を感じて逝ける。
貴方の笑顔も、声も、体温さえ鮮やかに思い出せる。
私は何て。
幸せ、なのでしょう。

***

胸騒ぎがする。燃えさかる宮殿の中、勝手知ったる裏道を駆けていく。
妙に静かなのが恐ろしい。炎が猛り、城を崩していく。
人の声が聞こえないのは何故だ。

「エウリュディーチェ……!」

ただひたすら、道を進んでいく。悪い予感を振り切るように。
だが、悪い予感は部屋に入り込んだ瞬間に確信に変わった。

「姫……っ」

燃えさかる部屋の中で、地に伏せた身体。
燃えていないことが奇跡だったが、既に事切れているのは、触れずとも解ってしまった。

「もう少し……もう少しお待ちいただければ……!」

抱きしめた身体は皮肉にも火の気の所為で温かかった。
まるで行為の最中のように。
ああ、こんなにも。貴女を愛したことはこの身が覚えているのに。
もう、貴女の魂はここにはないなんて、何ということだろう。



:煉獄の炎にあのひとの灼熱を想おう

「……私は今でもよく覚えています。初めて城に上がった日のことを」

姫の身体を抱きながら、呟く。
もう目は開けられないが、口はまだきける。大分渇きが激しくなってきたが。

「国を守ると誓いながら、既に私の心は貴女を守ると、それだけを考えていました」

身を覆う熱に、何故苦しさよりも安らぎを感じるのだろう。

「……やはり……連れて逃げればよかった、ですね」

咎だろうか。思いを貫けなかった私と貴女の。

「それでも、こうして。…………貴女を抱きながら、貴女の傍に行ける。それを思うと悪くない終焉だと……考える私は愚かでしょうか」

身を焦がす炎に、繋がった夜を思い出す。
包んでくれた熱の何と心地良かったことだろう。

「……許してください」

貴女と二人、国を去って生きる道を選べなかった私を。
それでも、今満たされた気分で逝く私を。
神は……お許し下さるでしょうか。


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