女王様5題<GL・一部性的表現有(SM要素含)>

お題配布元:花々(閉鎖)

01:ヘタレ
02:早くしなさい
03:絶対服従
04:度胸
05:ご主人様

全部で一つの話になるよう繋がってます。二人の女王様による百合。


01:ヘタレ

「下手糞」

絢華お姉様の吐き捨てるような声に、お姉様の足元に跪いて、足指の股に舌を這わせていた男が凍りついたように止まる。

「お前、もう私と何度こうしていたか覚えていて?」
「……四回目、です。絢華女王様」
「そう、四回目。それだけ回数を重ねていながら、まだ舌遣い一つまともに出来ないのね。今日は涼香女王様も見ているというのに。お前は私に恥を掻かせるつもり?」
「……っ、申し訳、ございません……!」

ああ、男の声が歓喜に震えている。
お姉様の叱咤の声には「仕方のない子ね」と言わんばかりの愛情が含まれているのがわかるからだろう。あの男が羨ましい。

「本当にお前はヘタレだこと。もういいわ。今日はそこで黙って見ておいで。一切動かないこと。涼香女王様、いらっしゃいな」

来た。内心の動揺を抑えて、応じる。
今の私は女王様。冷静に。

「何か? 絢華女王様」
「見せ付けてやりましょう。アレに。そして、手を出せないアレを見ながら、楽しみましょう」
「まぁ、素敵な趣向」
「絢華女王……様」
「なぁに、不満? お前が悪いんじゃないの。いいわね、動くんじゃないわよ。さぁ、涼香女王様」
「ふふ……」

ああ、本当に愛しいこと。アレがヘタレているおかげで、私はこうしてプレイの一環という形を取って、堂々とお姉様と愛し合える。
お姉様の唇と指が肌の露出されている部分に触れていくたび、目も逸らせぬアレは欲望だけを膨らませながら、手も伸ばせず。
ついに耐え切れず達した男。お姉様の鈴を転がすような笑い声につられて私も笑った。
お許しください、申し訳ございません、と地に頭を擦り付けて請う男の姿は本当に愉快で愛しい。



02:早くしなさい

――Sを、女王様をやろうというのであれば。

初めてお会いした絢華お姉様は本当に美しかった。
切れ長の目、筋の通った鼻、赤く魅惑的な唇。染みの一つとてない白い肌。
輝く漆黒のストレートの髪。際どい衣装も凛々しく映えるスタイルの整った身体。
きっと最初から魅了されてしまっていた。

――まずはMを知ること。Mとしての気持ちを知らなければ、いけないのよ。

爪の形も美しかった。その指が私の顎のラインを辿って。
顔を上げさせられたのも不快に思わなかった。嬉しかった。

――教えてあげるわ。貴女が誇り高い素敵な女王様になれるように。

はい、お姉様。と思わず返した私にお姉様は笑ってくださった。
可愛い子ね。髪を一束とられ、落とされた口付けに身体が熱を持ち、恋に落ちる音がした。

***

「早くしなさい。四つん這いになるのは初めてじゃないでしょう?」
「は、はい……。でも……」

――音の割には威力はないわ。少し赤くなるだろうけど、数日で元通りになってよ。

お姉様の手にしているいくつかの房に分かれたバラムチを見ると、躊躇ってしまう。
肌が傷ついたりはしないというし、お姉様の腕も信用しているけれど。

――案外、社会的地位のある方が愉しんでいかれることも多いからね。言い訳のつけられない跡を残すようなことは基本的にはしないのよ。

そう、おっしゃったけれど。

「何時まで躊躇ってるつもり? 愚図は嫌いよ」
「……っ! ごめんなさ……」
「謝るくらいなら、早く四つん這いにおなり。さっさとしないと鎖もつけてよ」
「はっ、はい!」

言われたとおりに、床に四つん這いになった。
この状態だとお姉様の姿が見えないのが恐い。

「……確かに威力はないけれどね。それでも全力でやったら、跡が残りかねないわ。だから身体で覚えるの。どの程度までだったら大丈夫か。こんな風にね」

ひゅんと空気を切るような音に続いて、派手な音が背で鳴った。

「あうっ!」
「冷静になりなさい。どう? そんなに痛むようにはしなかったはずよ?」
「え。あ……」

確かに背が熱く感じたのは一瞬で、今はもう波が引いている。

「音が大きいから、衝撃を大きく錯覚してしまうだけ。もう一度いくわよ。落ち着いて受け止めて御覧なさい」
「は、はいっ」

ビシッ!!と今度鳴った音も先程と変わらなかったけど、今度は冷静に受け止められた。
一瞬だけ熱を持つ感じはあるけれど、痛むというほどではない。
こういうこと、なのね。

「わかったかしら?」
「ええ、なんとなく」
「貴女は覚えがいいわね」

お姉様の指が背中を辿っていった。
ひんやりとした指はとても心地良く、それだけでも恍惚感が得られる。
ああ、わかりました。このお姉様が与えてくれる悦楽から、皆離れられないのですね……。



03:絶対服従

「身の程を知りなさい、豚。お前などこれでイケばいいわ」

男の中心をヒールのつま先で軽く踏みつけると、男の顔が歪む。
恐れと歓喜の入り混じった顔。何時からかこの顔を見るのは快感になっていた。

「……お、お許しください! 涼香女王様!」

誰にも言えぬ性癖をひっそりと店で解消する。
そんな哀れで愛しい男たち。
自分の支配下にある、と思うと言い様の無い高揚感に包まれる。
私は確かにこの仕事を楽しみ始めていた。

***

絢華お姉様に教えを受け、正式な女王様として働き始めてから二ヶ月。
気がついたら、店で五本の指に入る指名の多さになっていた。

「貴女は今まで見た中でも、いないくらい優秀ね。私も鼻が高いわ」
「いいえ。……いいえ、お姉様の教えがお上手なのです」

絢華お姉様に言われるほどでは本当にない。
だって、お姉様が全て教えてくださったことだし、常にトップに君臨しているのはお姉様なのだから。
憧れだった。本当に。だから、シフトも出来るだけお姉様に合わせて、空いた時間にはひたすらお姉様に話しかけた。
話がしたかった。もっともっとお姉様を知りたかった。
他の誰より、この方の近くにいたいと願ったのだ。
***

「偶には、飲みにいきましょうか?」

ある日の仕事上がり。そう言ってきたのはお姉様だった。
一瞬、控え室の空気が変わったのがわかる。
孤高の人。誰も素性を全く知らない。近寄りがたい人。高嶺の花。
それが絢華お姉様。恐らく誰も飲みになんて誘ったことが無かったのだろう。
当然、断る理由なんて欠片もない。

「ええ勿論!」
「お店は良いところを知ってるわ。そこで良くて?」
「はい!」

嬉しかったし、優越感を感じた。
誰も知らないだろうお姉様のプライベートに踏み込めるかも知れない。
胸の鼓動の高まりを自覚した。

***

「涼子、貴女どうしてこの仕事についたの?」

涼子、と本名を呼ばれるのがたまらなく嬉しい。
外で源氏名で呼ぶのも、と言ったら本名で呼んでくれた。
お姉様は本名を教えてはくれなかったけれど。
お姉様でいいわよとそう言って。
そして、大分アルコールが進んだ頃、不意にお姉様がそう尋ねてきた。
自分に興味を持ってくれている言葉にまた胸がときめく。
だって、この世界では仕事を始めた理由に踏み込まないのは暗黙の了解。
訳ありで仕事している者がどうしたって多いからだ。 けど、それを押し切るほどに興味を持ってくれている。
そんなことがまた興奮を呼び起こす。

「気になり……ますか?」
「最初はこの世界にそぐわない、と思っていたから。正直言うとね、一週間持てばいいほうだろうと思っていたわ。随分育ちが良さそうだったし、何かのきっかけがなければ知りもしなかった世界じゃないかと思って」
「あ……」

びっくりした。そんなところに着目してくれていたなんて。
それとも余程そんな雰囲気を出していたのだろうか。
お酒に後押しされるように、苦い記憶が口をついてでる。

「……家と会社が人に取られたんです」
「取られた?」
「はい。両親が死んだ後、後見人になってくれていた伯父に。会社はどの道私では経営できなかっただろうから、構わないのですけど……家は。両親と過ごした想い出が残っているので」
「買い戻したい?」
「そうですね。お金を貯めるのに手っ取り早いのは風俗だと人に聞いて……でも、その。私、男性経験がない……のでこれなら、と」

この歳になって、経験がないと呆れられるだろうか。
だけど、お姉様は笑わなかった。

「男を知らない状態で、この世界に足を入れるのは勇気がいったでしょうに」
「あ……」

お姉様が優しく頭を撫でてくれた。その仕草に何かがこみ上げてきて、つい泣いてしまいそうになる。
そんなみっともないところなんて、この人に見せたくない。
誤魔化すように、今度は私からお姉様に話を振った。

「お、お姉様こそどうして? どうして、この仕事を……」
「気になる?」
「え? ええ」
「……ふふ。ねぇ、私のものになったら教えてあげる。そう言ったら、貴女どうする?」
「あ……」

お姉様のものに? ……私、が?

「……つまらないことを言ったわね。お酒の上での戯言と忘れなさ……」

頭から手を引きかけたお姉様の手を掴む。両手でしっかりと。

「涼子?」
「…………して、下さい」
「え?」
「私をお姉様のものに……して下さい」

迷うことなんてなかった。

「貴女、自分で言ってる意味がわかっていて?」
「わかっている……と思います」
「私のものというのは、比喩でも何でもなくそのままの意味よ?」
「はい」
「……私のものでいい、という理由を。私のどこがいいと思ったのか。聞かせてもらえるかしら?」

どことなく訝しげな視線を向けてきたお姉様に、思っていたことをそのまま告げる。

「綺麗で、華やかで、艶やかで、憧れで。……そして、とても寂しそうに見えました」
「寂しそう?」
「本当は優しいのに、優しくなくあろうと……人を寄せ付けないようにしている、その部分がとても気になっていて……傍にいたいと思ったんです」
「涼子」
「傍にいてはいけませんか。お姉様のものになりたいと願ってはいけませんか」
「…………本気にしてよ」

自分の手ごと、お姉様の手に持ち上げられたと思ったら、手の甲に口付けを落とされた。
柔らかくて、温かな唇の感触は離れても手に残っている。

「明日は貴女もお休みだったわね。……今から私の家においでなさい」

そう言ったお姉様の顔は、今までみたどれよりも穏やかで優しかった。
顔が赤くなるのを自覚しながら、こくりと頷いた。



04:度胸

「本当にいいのね?」
「はい。家に誘ってくださったのはお姉様でしょう?」
「……貴女、案外度胸が据わっているわね」
「あ……っ」

胸を探っていた指が頂を掠めて、そこから何かが広がっていく。
お姉様も私も、既に何も身に着けていない。

――私のものになりたいと……そう言ったわね?

初めて重ねた唇は化粧品の味がしなかった。
紅が生まれたままの色だと知って、驚いた。

――私のものになるなら触れさせなさい。全ての場所に。

仕事で着ている服からも身体の線は知っていたつもりだったけれど、本当にお姉様は隅々まで綺麗だった。
真っ白な肌。張り出た形のいい胸。くびれたウエスト。綺麗なお尻。下腹部の茂みさえ綺麗だった。
美人はどこをとっても美人なんだな、と思う。
ごくありふれた体型でしかない、自分の身体が無性に恥ずかしくなった。

――あの……あんまりじっくり見ないで下さい。恥ずかしい、から。お姉様みたいに綺麗じゃないので……。
――…馬鹿な娘ね。十二分に綺麗よ。それにね。造形よりも、感じてくれるかどうかの方が気になるものよ。

「ん……あっ…………!」

ざらりと温かい感触が指に替わって這わされる。
切ないような、疼くような。脚の間が何か温かくなるような不思議な感覚。
もどかしくて触れられたいと思った途端に、お姉様の指がそこに触れた。
じん、と気持ちよさがその周囲に漣のように押し寄せてくる。

「……濡れてくれるのね。可愛い娘」
「ん、や……」
「ここに自分で触れたことは?」
「……っ! んんっ」

首を振るとお姉様は嬉しそうな顔になる。

「本当に可愛い娘。どうなってるか、鏡で見てみる?」
「っ!!」
「ふふ、冗談よ。今は、ね」
「う、あ……」

指でその場所を押し広げられた感覚が伝わる。
全部、見られている。自分でもじっくり見たことのない場所がお姉様に。

「綺麗ね。貴女、本当に綺麗。指。一本挿れていい?」
「は……い」
「力、抜きなさいね」
「あ……ああ!」

静かに、ゆっくりと。指が深く入ってくる。
ずん、と響いた刺激に一番深いところに触れられているのだと解る。
あの爪先まで整った綺麗な指が、自分の中に。

「絢華っ……お姉様……!」
「……あや」
「……え?」
「ひらがなで『あや』。それが私の名前よ」

お姉様の本名。教えて貰えた。呼んでいいと解釈していいの?

「あや、お姉様」
「ええ」
「お姉様……あやお姉様っ」
「……いい娘ね。涼子」
「んん……っ」

額に口付けられたかと思うと、指が中で蠢き始める。
内部全体を確かめていくように動かされて、内側が溶けてしまいそう。

「は……あっ」
「ねぇ……膜。指で破ってもいい? 破らなくても気持ちよくなれるし、かえって痛い思いをさせてしまうけど……証が欲しいわ」
「あ……」

一瞬だけ迷ったけど、真剣な眼差しの前に躊躇いは消えた。

「はい。お姉様の……お好きに」
「……有り難う」

一旦、指が抜かれたけど、間髪いれずに今度は二本の指が入り……その場所を勢い良く広げられる。
裂ける様な痛みが走った。

「い、痛っ!!」
「……少し出血したわね。ああ、甘いわ」
「や……!」

そこから抜かれた指をお姉様が舐めていた。
指先についた値を舐めるごとに立てられる水音。淫靡でぞっとするほどに綺麗。

「おね……さま」
「中はもう痛いわね。こっちでイカせてあげる」
「ひあっ!」

また前の方に指が触れて。その場所でリズムを刻んで跳ねる。
痛みが鈍くなり、溶けそうな感覚がどんどん強くなっていく。

「あ……あああっ!!」

腰を何かが突き抜けていく。
霞んだ視界にお姉様の笑顔が映って、やっぱり、とっても綺麗だと思った。



05:ご主人様

「涼子。貴女、この仕事お辞めなさいな」
「お姉様!?」

ある日の仕事の帰り道。
いつものように二人で並んで帰る道すがら、突然言われた言葉に一瞬視界が暗くなる思いがした。
何か……私は何かお姉様の意に沿わぬことをしただろうか?
最近は仕事も板についてきたという自信もあるのに。

「傍にいさせてください! お姉様のお傍に!
何か気にいらないことをしたのならば、改めます! だからっ……」
「ふふ。貴女何か勘違いしてるのではなくて? 私を御覧なさい。怒っているように見えて?」
「え?」

確かに。お姉様の顔つきは柔らかく、怒ってるようには見えなかった。
なら、今の言葉の意図するところは一体?

「私はね、自分のものと決めたら他の誰にも触れさせたくないのよ。独占欲が強いの。仕事だろうと貴女の目が他の人間に向けられるのは嫌。貴女は私が養ってあげる。だから、私だけのものになりなさい」
「あやお姉様!」

いていいのですね? お姉様のお傍にずっといていいのですね?
お姉様だけのものに……ああ、なんて素敵な響きなんでしょう。

「私を選ぶわね?」
「ええ、喜んで!」

差し出された腕に身体を預けると、引き寄せられて抱きしめられた。
服越しにつたわるぬくもりがそのままお姉様の心に思えて、とても幸せに感じられた。
両親と過ごしていた時間より何よりも。
あやお姉様と一緒にいられるなら、他はもう何もいらない。
ねぇ、お姉様。大好き。愛してます。ずっとお傍にいます。

――お姉様。そういえば、お姉様がこの仕事についた理由は何だったんですか?
――……ふふ、貴女に逢う為、だったかも知れないわね。
――狡いです。いつか、ちゃんと教えてくださいね。

貴女が本当に私に全てを委ねてくださる、その日をずっと待ってますから。


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