四つの物語:Type 17<男女CP・一部性的表現有(屍姦ネタ有)>

お題配布元:追憶の苑

01:闇夜に放たれた獣 ※近親相姦ネタ
02:凍れる花 ※屍姦ネタ
03:ぬくもりを持たない身体
04:空虚な瞳

総じて男性陣がそこはかとなく気持ち悪いのでご注意下さい。


01:闇夜に放たれた獣

「……望んでなどおりませんでしたのに」

ねぇ、兄様。私は世界なんて望んでおりませんでした。
ただ、静かに貴方と優しい時を過ごせたなら。
それだけで、満ち足りていましたのに。

――お前の望む世界をやろう。

あの時、望んでなどいないと言えていたなら。

――お前を必要とする者たちで満ちる世界を。

必要としてくれるのは貴方一人で十分だと、どうしてお気づきになりませんでしたか。
光ある場所に連れ出してくれた温かな手はもう冷たい。
きっと世界を手中にしようとして失敗した愚かな男。
後の世の人々はそう貴方を評すでしょう。
貴方の手を血に染めさせたのは、私。愚かなのは私です。
ああ、貴方の手を離さずにさえいたのなら。

「兄様……」

最初で最後の口付けは冷たい血の味。
愚かな妹を、どうかお許しくださいませ。
誰より愛しい方、お傍に行かせて下さいな。
せめて、貴方が包まれる闇の中で私も一緒に。



02:凍れる花

「貴女が悪いのですよ」

かつて、温かく柔らかく。私を包み満たしてくれた花は今は凍えるように冷たい。
硬直の始まりつつある身体の感触はまるで無機質な道具。
未だ濃厚な血の匂いだけが生きていたことを告げている。
そう、もう魂の宿らぬ肢体。それでも私は貫き続ける。

「裏切ったら許さない。そう言ったでしょう?」

胸元に残る斑点は私がつけたものではない。
誰の唇による作品かを私は知っている。
あの男の腕で貴女はどのような悦楽の歌を紡いだのか。

「他の男と通じたら殺す。……それも言いましたね?」

脅しだと思っていたのでしょうかね、可愛い女。
私は自分のモノに手垢を付けられるのが、大嫌いだと知っていたはずですよ?
だから、こうして清めているんです。
他の男に汚された小径を。
綺麗な状態で召されるのだから、感謝して欲しいほどですよ。私としては。

「……っ」

動かぬはずの唇が微かに開いた。ああ、知ってますよ。
感じているときの貴女の癖だ。貴女の花に精を捧げよう。
次生まれたなら、また貴女と逢える様に誓いを籠めて。



03:ぬくもりを持たない身体

死んだ妻と同じ顔の人形が欲しい。
僕がそう告げたときの人形屋の表情は苦渋に満ちていた。

「……そんな未練を持っていたら、奥さんは何時になっても浮かばれませんぜ」

仕事だからやりますがねと付け加えて、人形屋は依頼を受けてくれた。
そうして、僕は妻と同じ顔、同じ体型の人形を手にした。
仕方が無い。だって僕はもう、妻以外の人間に欲情なんて出来なかったのだから。
優しい印象を与える目。口紅もしていないのに綺麗な赤をしていた唇。
日本人離れしていたほどに色の白い木目細かな肌。
細くはあったけど、適度に抱き心地の良いくらいには肉のついた身体。
大きくはなくても形のよい胸。
ほんの僅か膨らんでいた触り心地の良かった腹。形の整った脚。
全てが僕の愛した妻のまま。
まったくもって、人の技術は素晴らしいところまで来たものだ。

***

「鈴」

出来上がった人形を持ち帰り、妻の服を着せ、髪を結い、久しく口にしていなかった妻の名でそれを呼ぶ。
心なしか微笑んだように見えて、衝動のままに掻き抱いた。
局部も行為に差し障りのないように作り上げられている。
勿論妻と同じ形で。だが、直ぐにそれは失望に変わる。
違う。やはり妻とは違う。
小さな宝珠は少し固くなった状態のままで、いくら触れても変わらない。
薄い花弁の纏わり付き方もぎこちない。そして、何よりも。
妻の弱かったところと同じ部分を突き上げても、濡れては来ない。
潤滑剤による水音が酷く空虚なものに感じられる。冷たいわけじゃない。
寧ろ、よくここまで再現できたものだと思うほどに人の体温と同じ温度。
しかし、違うのだ。あの優しく包んでくれたぬくもりはこの身体にはない。
突き上げるほどに絡みついてくれた腕も脚も、ただだらりと垂れ下がるだけ。
名を呼んで、嬌声を上げてくれた唇は何も紡がない。
……所詮、命の入らぬ人形か。達することも出来ぬままに、それから己を抜いた。

「鈴……」

今度は目の前の人形にでなく、遠くにいる妻に向けて。
勿論返答はない。無性に悲しくなった。
二度と得られぬぬくもりを思って涙が溢れた。
やはり、人形は人形。どれほど鈴に似ていても、これは人形なのだ。

――奥さんは何時になっても浮かばれませんぜ。

お前は悲しむだろうか? 嘆く私を知って切なく思うだろうか。
ああ、鈴。せめて僅かな間でもこの腕にお前を抱けたなら。



04:空虚な瞳

あの子が壊れたと同時に妻の世界も壊れてしまった。

「見えるかい? 今日は空が随分高い。雲もないだろう? 澄んだ綺麗な空だな。もう秋なんだね」

話しかけても瞬き一つせず、妻の目は遠くを見たままだ。
もう私を、世界の全てを見なくなって、一年近くになる。
虚ろな目が最初は酷く哀しかったが、人とは残酷なものでもうその目に慣れてしまった自分がいる。
一緒になって十二年。私たちの間に子どもはいなかった。
自然妊娠ではまず無理と言われ、不妊治療を繰り返した。
医療が進んだからこそ、可能になった治療。
もしも、最初からなかったのなら諦められたのかも知れない。
無いものねだりで済んでいたのならば、違っていただろう。
だが、もしかしたら次は。次がダメでもその次は。
そんな期待を捨てきれなかった。
疲れてやつれていく妻を前に、もう止めようと幾度か言った。
止められないと妻は首を縦に振らなかった。
強引に止めさせておけば良かった、
泣いてでも引き止めるのだった。この一年何度思ったか。
重なる期待の末にとうとう宿ってくれた命。
だけど、その子は無事に生まれてくることはなかった。
それだけでなく、妻にももう可能性がなくなってしまった。
妻の所為じゃない。私の所為でもない。病院の所為でもない。
運が悪かった、それだけのことなのだ。
しかし、それで妻の世界は完全に壊れてしまった。
抜け殻のようになってしまった妻を引き取りたいといった、妻の両親の申し出は断った。手離したくなどなかった。
まだ若いのだから、今なら他の人でもと言う自分の両親の言葉も拒んだ。
彼女でなければダメだった。

――ねぇ、ずっと二人で一緒にいられたらいいね。

結婚前の妻の言葉。そう、二人でいられるならいい。
それだけを願って一緒になったはずだった。
だから、いつかきっと妻は戻ってくる。
一年先か、五年先か、あるいは十年先かも知れないけど、
二人でいるために、彼女は私のところに戻ってくるのだ。

「もう少ししたら、あの子のお墓参りに行こう。きっとあの子も寂しがっている。お腹の中にいたときにあんなに話しかけていたのが途絶えてしまったのだからね」

ねぇ、あの子は残念なことになってしまったけれども。
それでも最期の瞬間まで、私たちは精一杯愛しただろう?
忘れることなく、思いを綴っていこうじゃないか。だから。

「……君も帰っておいで」

待っているから。その目にもう一度温かい光が宿る日を、いつまでも。


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